予防歯科
予防に勝る治療なし
むし歯や歯周病で困っている方を治療で助けることは、もちろん歯科医院の大切な役割です。しかし、きちんと予防できれば、困った状態になるのを防ぐことが可能なので、私は予防に一番力を入れるべきだと考えています。むし歯や歯周病の予防のために行われるご自身の歯磨きや歯科医院の歯の清掃(クリーニング)、食事の指導、フッ化物使用などは、そのものが治療といえます。まさに予防に勝る治療なしです。
予防の目的は、歯や歯肉が悪くなってから歯科医院に来るのではなく、日常からお口の健康を維持し、美しい歯をいつまでも残すこと。自分で毎日きちんと歯磨きをしていても、セルフケアだけでは歯の汚れを完全に落とすことはできないので、定期的に歯科医院のケアとチェックを受けることをお勧めします。
セルフケアでは落ちないバイオフィルムとは?
磨き残しなど、お口の中に汚れが蓄積されると、その汚れを栄養源とする細菌が増加し、歯の表面にバイオフィルムと呼ばれる膜を形成します。このバイオフィルムの特徴は、歯の表面に強い力で付着し、簡単には落ちないことです。抗菌性の薬が効きにくく、間違ったブラッシングですべてを落とすことはできません。
「生涯医療費」は歯の健康がカギ
総医療費定期健診を受けて歯をきちんとケアすると、年間の総医療費が低くなる傾向にあることがわかってきました。つまり、歯が健康であれば医療費全体も下がり、歯科診療費を含めても「生涯医療費」が低くなるのです。
歯の寿命を延ばすこと=健康寿命(健康で明るく元気に過ごせる)を延ばすこと
歯は健康の窓口なのです。
むし歯で全身への感染は起こる…
むし歯でエナメル質の下の層である象牙質に細菌が侵入するとすでに細菌感染が起こっている状態になります。象牙質には細管構造があって歯髄(俗にいう歯の神経)までつながっているからです。この段階では全身への重篤な影響はないと思われますが、歯髄(俗にいう歯の神経)まで侵されると根尖(歯根の先)病変となって、根管治療をしても予後が悪い場合があります。この病変部には細菌が存在し、その感染が心臓疾患やがんをはじめとする様々な全身疾患の原因となっていることを示唆する報告もされています。
予防メニュー
ブラッシング指導
毎日きちんと歯磨きをしているのにむし歯や歯周病になってしまう方がいらっしゃいます。しかし、そういうケースはきちんと磨いているつもりでも、実は歯と歯の間や奥歯の裏側などに歯垢が残っていることがほとんどです。
効果的に歯を磨くためには、歯の隅々まできちんとブラシが届き汚れを落とせるよう、 自分の歯の状態に合った正しい磨き方を知ることが必要です。当院では、患者さん一人ひとりのお口の状態や歯並びを考慮して、個々に適切な正しいブラッシング方法を指導しています。
PMTC
PMTCとは「Professional Mechanical Tooth Cleaning」の略で、 歯科医師や歯科衛生士が専用の器具とペーストを使って、 通常の歯磨きでは落としきれない歯の表面の汚れや歯垢、バイオフィルムなどを除去(クリーニング)する方法です。PMTCによるクリーニングには、むし歯や歯周病を防ぎ、強く美しい歯を保つ効果があります。
フッ素(フッ化物)塗布
歯や骨に良い影響を与えることで知られるフッ化物を塗布する治療法です。フッ素には、歯の石灰化を促したり細菌の活動を抑制する効果があるので、フッ化物塗布を定期的に行うことでむし歯を予防できます。
う蝕予防方法に関するエビデンス
アメリカ予防医療研究班は、フッ素(フッ化物)応用とシーラントはう蝕予防効果のエビデンスがもっとも高いとしている一方、フッ化物配合歯磨剤を使用しない歯磨き(ブラッシング)、デンタルフロスの使用ではエビデンスが乏しいとしています。
日本では水道水へのフッ化物添加(フロリデーション)やフッ化物サプリメントによる全身応用は行われていませんが、局所応用であるフッ化物歯面塗布やフッ化物洗口、フッ化物配合歯磨剤は簡単に利用することができます。
フッ化物の使用は信頼できるエビデンスに基づいたう蝕予防法で、諸外国のう蝕予防のガイドラインなどでも利用することが推奨されています。
食事・間食指導
う蝕を誘発する食品(炭水化物)の間食回数が多いほどう蝕になりやすいことが証明されています。そして砂糖を多く含み口の中にある時間が長い食品は、う蝕を作りやすいといえます。
代表的なお菓子をう蝕を作りやすい順に並べると(おおよそですが)
キャラメル、トフィー、キャンディー、ガム、グミ、ウエハース、カステラ、ビスケット、まんじゅう、チョコレート、ケーキ、ジャム、ゼリー、アイスクリーム、ポテトチップ、せんべい、えびせん というような感じでしょうか。
また、ジュースや炭酸飲料、スポーツドリンク、甘みがあるお茶・コーヒーなど砂糖を含む飲料をダラダラ飲むこともう蝕の原因になります。砂糖を含んだ食品がダラダラと長時間、むし歯菌(う蝕の原因菌)が付着している歯に触れているとう蝕ができるということです。
キシリトールについて
キシリトールはう蝕の原因菌とされるミュータンス連鎖球菌に取り込まれても代謝されずに酸が作られないので、どうしてもガムやキャンディーを食べたい場合はキシリトールを甘味料として使用しているものをお勧めしています。ただ、これだけでう蝕予防ができるわけではないのでご注意ください。
シーラント
シーラントとは、奥歯の溝を削らずプラスチックで塞ぐむし歯予防法です。奥歯の溝は複雑な形をしているので歯ブラシの毛先が入らず、毎日歯磨きをしていてもむし歯になってしまうことがありますが、シーラントで奥歯の溝を塞ぐことで奥歯の溝のむし歯を防げます。萌出したての乳歯や永久歯に効果的です。
スケーリング
ご自身による日常の歯磨き(ブラッシング)では除去できない、歯の表面の固い歯垢や、歯石など炎症の原因になる沈着物をスケーラーを使用して取り除き、きれいな歯面にします。超音波スケーラー(キャビトロン)を使用する場合が多いですが、歯が敏感な方には超音波スケーラーを使用せず手用のスケーラーで除去することもあります。
キャビトロンは多くの一般的な超音波スケーラーとは振動方式が異なり、痛みや振動が抑えられるも歯石の除去効果が大きく、また温めた温水を使用するためしみるなど不快感が生じにくいといわれています。
定期健診のお知らせについて
予防ケアの大切さをお伝えするために、患者さんには定期健診のお知らせ(ハガキ)を送らせていただいています。それもきっかけのひとつとして、ご自身の歯の健康に役立てていただければ幸いです。
おうちでのお手入れと、医院でのケアを計画的に行うことで、大きな効果が発揮できます。一生ご自身の歯で過ごせるよう、力を合わせて歯の健康を守っていきましょう。予防に興味を持っていただけた方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。